アセビ(ツツジ科)
奥秩父・雲取山 2024.03.31
アセビはツツジ科の低木~小高木で、東北南部~九州の温帯域に自生しています。漢字で書くと「馬酔木」、この木には全体に毒があり、馬が食べて毒に当り、酔ったようにふらふらとなったことからついた名前らしい(諸説あるようですが)。こんなことから増え続けるニホンジカなども食べず、現在、私達がよく登る丹沢や奥多摩、奥武蔵、奥秩父に多くみられます。花は東京周辺の山では3月末~4月始めに白いスズランのようなたくさんの小さな花を付けて、春の陽光に輝いているのをよく見ることができます。
3月31日の早朝、三条の湯から雲取山への水無尾根ルートを歩き始めました。道は尾根をうねうねとトラバースしていきます。周囲はミズナラやブナの落葉広葉樹林、林床にはアセビがたくさん自生していました。
だいぶ標高を上げた頃、道は一度尾根上に上がり岩が出て高木が生育して陽当たりの良いところにたくさんのアセビが咲いていました。まだまだ早い春、この辺には花がほとんど見られず、白い花が輝いていました。アセビの後には飛龍山の勇姿が、なかなかの景観でした。
この後、雲取山の山頂に立ち富士山や南アルプスの景観を楽しんで、長い下山路を鴨沢まで下山しました。
参考文献:林 将之 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類 山と溪谷社 2020
カゴノキ(クスノキ科)
駿河・賤機山 2023.12.22
北岳から南に続く白峰南嶺、大井川の左岸を南下して安倍奥の山伏で2つに分かれる。賤機山は分かれた山稜が八鉱嶺をとおり安倍川の左岸を南下し、駿府城の北で消える直前にある小さな山です。
鯨が池付近から稜線に上がり南に福成山、茶臼山、賤機山、浅間山をとおり、浅間神社まで歩きました。
都市の中の高い所で標高200mそこそこの山稜、賤機山までは竹林、みかん畑、茶畑が所々出てくるような里山ですが、賤機山まで来ると浅間神社が近いせいか手がつけられていない常緑広葉樹林となりました。山稜のすぐ下には大都市が広がり、こんな常緑広葉樹林が広がるなんてちょっと不思議でした。
暗い樹林の中に特徴的な幹の模様をした幾つかカゴノキをみつけました。幹の表面は点々と剥げ落ちてあばた状になっていています。この模様を鹿の子供の模様に見立て「鹿子の木」と名付けられたそうです。見れば「うんうんと」頷けます。久々の対面です。
カゴノキはクスノキ科の常緑広葉樹の高木で、分布は暖かな関東以西の暖温帯の山々です。東京付近では湘南や三浦半島の暖かい地方でよく見ることができます。奥多摩など内陸の山々でも見たことがありますが、単木的で、今回のようにたくさんの個体はみたことがありません。さすが静岡の低山、年間を通じて暖かいのでしょう。
大都市の中の自然、珍しい木をみつけてなかなか面白い山歩きをできた1日でした。
参考文献:林 将之 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類 山と溪谷社 2020
アカガシ
土佐・横倉山 2023.10.31
第一駐車場から登る登山道は修験道の道、兜嶽のピ-ク付近は岩稜が続きました。そこを越えると地質は花崗岩から石灰岩となり、穏やかな地形に変化して、アカガシを主体とした常緑広葉樹林の深い森になりました。アカガシはどれも大きく立派です。関東地方ではあまり見ることのできない森、南に来たんだなと感じることができました。横倉山の三角点はそんな森の中にひっそりとありました。
アカガシはブナ科の常緑広葉樹です。材が赤褐色をしていることが名前の由来だそうですが、年取った個体の幹の表面は鱗状に剥がれて赤褐色をしているのでわかりやすい樹木です。カシ類の中では最も高標高のところまで見られ、丹沢などではブナと一緒に生育しているのを見ることができます。高尾山の森にも結構多くみられます。
薄暗いアカガシの森を進んだ三角点の奥には横倉宮のピ-ク、石灰岩の露出した馬鹿試しという岩壁があり、石灰岩地特有のイワシデやヨコグラノキがありました。横倉山は植物学者の牧野富太郎のフィールド、ヨコグラノキは彼が発見したものです。
奥に登山道を進めば安徳天皇陵墓参考地、下山途中には巨大杉の林立する杉原神社があり、古来から地元の人に親しまれている山ということがわかりました。照葉樹林の山、良い山でした。来年は伊尾木洞とあわせて春の森をみに再度来ようと思いました。
クロベ(ネズコ)
越後・苗場山 2023.09.11~12
苗場山頂での朝、雲が多い空だったのですが、東の空が真っ赤になって太陽が昇りました。
日本の南には台風がせまり、2泊3日の日程を赤湯に行くことをあきらめて1泊2日で実施したこの山行、さすがに台風の影響もあり、雲や霧が多く発生していましたが、何とか日の出を見ることができました。
下山は秋山郷、歩きだした山頂の湿原の向こうの上越国境の山々には滝雲をみることができました。南から暖気が入り発生したものでしょう。なかなかの迫力です。
山頂の広大な高層湿原から急な崖を降りる長い道、歩くのにすっかり飽きる頃、三合目上の小尾根に出ました。この尾根を下れば三合目の駐車場です。
尾根上の岩の上には大きな針葉樹が根をくねらせ生育していました。ヒノキかな。葉をみると、鱗状の葉の裏にはY字の白い気孔線はみられずクロベであることがわかりました。
クロベはヒノキ科の針葉樹、材木になるとネズコと呼ばれます。ヒノキと同様に葉は鱗状をしています。ヒノキより葉が黒いから黒檜(クロヒ)、黒部川周辺に多いからクロベなど名前に関しては諸説あります。
樹高は10m以上、幹回りは5人以上が手をつないでも届かないだろう。樹齢は少なくとも数百年だろう。ずっと前からここにいたのですね。ここにいればブナなど他の樹木は入って来れないので空間を独り占めできるのですね。
根が盛り上がって網目状に生育している2本のクロベの間に続く登山道を通って尾根の下に続くブナ林の道を下りました。
オオヒョウタンボク
北ア・槍ヶ岳 氷河公園(天狗原) 2023.09.01
槍沢の石ころゴロゴロの崖錐端トラバースを終わると急な斜面を登るようになります。日陰で涼しい低木の中に続く道を辿ると、周囲には赤い実を付けた樹木がたくさん出てききました。
赤い実はひょうたんの形をして、艶やかに輝いて、美味しそうに見えます。ちょいと摘まんで口に入れたくなりますが、ダメダメ、毒のあるオオヒョウタンボクの実です。
オオヒョウタンボクはスイカズラ科の低木、春に白色のスイカズラによく似た花が咲きます。7月の終わりに針ノ木峠への道でたくさん咲いていたのを思い出します。花は2つがとなりどおし咲いて、やがて実になると2つがくっついてひょうたんの形になります。これが名前の由来なのでしょう。この木の仲間はたくさんの種類があるようです。
そんなオオヒョウタンボクの林を抜けると天狗原の台地、後を振り返ると槍沢モレーンのグリーンバンドとカールの向こうに槍ヶ岳の穂先がすっくっと立っています。
天狗原、またの名を氷河公園。氷河のあった数万年前に氷河に運ばれてきた岩でできた地形で凹地には小さな池があります。池と槍の穂先、水面には逆さ槍、そして大喰岳や中岳のカール、東鎌尾根などの氷河地形が広がっています。槍ヶ岳のような喧噪もなくてゆっくり景色を楽しみました。
艶やかなヒョウタンボクの実と槍ヶ岳の絶景を楽しんだ1日でした。
ヒオウギアヤメ 奥羽・焼石岳 2023.08.06
銀名水の避難小屋を早朝出て、登山道を登ると緩い斜面に水がにじみ出ている湿原に出ました。咲いている咲いている。紫色の大きな花が所々にみえます。大きな外側の花弁(外花被片)に網目模様がはっきりしている。花頭の内側の花弁(内花被片)はほとんどみえない。ヒオウギアヤメの特徴です。以前来たときもみることができましたが天気があまり良くなくじっくり見ることができませんでした。
ヒオウギアヤメは本州以北に分布している高山性のアヤメです。内花被片が小さいため普通のアヤメより小さく地味ですが、そこも心引かれるところかもしれません。網目模様をしっかり見るとずいぶん繊細で、花弁全体に広がっています。自然が作ったすばらしいデザインです。
あちこちに咲いているアヤメを楽しんで、頂上直下の台地に上がると広大な草原が広がります。そこにはたくさんの花々の共演の舞台。さすが花の山、焼石岳、所々で足を止めながら山頂に向かいました。
山頂では青空の下、のんびり、ゆっくり。下りも花を楽しみ下山しました。
オオヤマレンゲ 大峰山脈・八経ヶ岳 2023.06.29
大峰山脈の最高峰、八経ヶ岳にはオオヤマレンゲの自生地があります。オオヤマレンゲはモクレン科の樹木で、6~7月にかけて白く大きな花を咲かせます。この子は自生のものは少なく、私は今までに黒姫山で偶然に出会っただけです(たぶん北限だと思います)。このように珍しい子ですので八経ヶ岳のでは自生地が国の天然記念物となっています。
数年前にここに来た時は花の時期を逸して会うことができませんでしたが、今回こそ会おうとばかり行者還りトンネルから登りました。
弥山を過ぎて少し歩くと鹿柵で囲まれた頂上直下の自生地に入ります。さて、咲いてるのだろうか。オオヤマレンゲの樹木はそこかしこにあるのだけれど、新葉が出たばかりの状況、花も蕾みもなく寂しい状態でした。唯一、1本の枝先に向こう向きで咲いている個体がありました。ちょっと失礼して枝をこっちに向けてじっくり眺めました。真っ白な花は清楚な姿でこちらを見ていました。
それにしてもこの状況は何なんだろう。鹿柵内に何かの拍子で入ってしまった鹿に春に出た新葉も蕾も食べられてしまったのだろうか。鹿柵ももちろん必要だけれど、もっと根本的な対策が必要だろう。手遅れにならないよう早いところお願いしたい。